パナソニックとトヨタ自動車が出資し、傘下のパナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社がまちづくり事業に取り組んでいるプライム ライフ テクノロジーズ株式会社。発足から5年目を迎え、グループの礎を固める「フェーズ1」を終えて、昨年から次の段階となる「フェーズ2」にステップアップ。事業の多角化を進めながら、新たなコーポレートメッセージ「未来をまちづくるPLT」を発表し、今後の展開に注目が集まっている。代表取締役社長の北野亮氏、代表取締役副社長の西村祐氏に新フェーズへの決意やこれからの戦略について伺った。
聞き手:フリーアナウンサー栗本 祐子 氏
住宅・建設から「まちをつくり続ける」ことへシフト
栗本
この夏、既存の住宅メーカー、建設会社という枠組みを超えた新たなグループ像を表明されました。なぜ今、「家を建てる」から「まちをつくること」へとシフトしたのでしょうか。
北野
理由は2つあります。周知のように日本社会は急速に少子高齢化が進んでいます。それはつまり、住宅建築のマーケット規模が縮小するということ。その中で、従来の住宅事業を続けながらも、ポートフォリオの多角化を図ることは必然の流れでした。
もう1つは、発足から3年間で傘下の5社合算の最高益に近い数字を残すなど、ある程度の結果を出し、新しいフェーズに入ったことです。このフェーズでは新築だけではなく多様な暮らし全般に関わる事業者に変わっていこうと思いました。その象徴がまちづくりであり、まちづくりを通して社会課題や地域の課題、住まい手の課題を解決していくという思いを改めて表明しました。
西村
高度経済成長期は住宅を提供することが、社会課題の解決につながりました。ところが、少子高齢化と人口減少が進む現代は、住宅を供給するだけでは社会課題の解決にはなりません。そこで私たちが解決すべき新たな社会課題とは何か。エコでサステナブルな暮らしで人々の幸せを支え続けるために、身近な生活環境の継続的な改善と定義される「まちづくり」に全面から向き合い、尽力しなければならないと考えました。
栗本
グループブランド策定を機に制定した新コーポレートメッセージ「未来をまちづくる」という言葉が印象的です。この言葉にはどんな思いが込められているのでしょうか。
北野
単に「まちづくり」と言うと、つくって終わりという印象もあります。「まちづくる」という言葉にはまちをつくったところがスタートであり、そこから寄り添い続けていきたいという強い意志を込めています。
一人ひとりに寄り添い続けるDNA
栗本
まちづくりというと、従来はデベロッパーや国・自治体が担うことが多かったと思います。デベロッパーと御社のまちづくりの考え方やつくり方の違いはありますか。
北野
当社グループはハウスメーカーを基盤にもつことが最大の強みです。ハウスメーカーはお客様一人ひとりに寄り添ってコツコツと丁寧に進めていく事業。つくる過程はもちろんですし、引き渡し以降もアフターメンテナンスやフォローが当たり前で、社員一人ひとりの思考にも事業構造にもそういったDNAが染みついています。だからこそ、面から思考するデベロッパーとは発想もベクトルも違う。ハウスメーカーは家そのものだけでなく、住まい手のライフスタイルや困りごとに対してすぐに対処していけることが強み。それをまちに展開するという意味で、既存のデベロッパーとは異なるきめ細やかな価値が提供できるはずです。
栗本
パナソニックやトヨタ自動車との連携、グループ5社のシナジーの手応えはいかがでしょうか。
北野
グループ企業としての規模感が大きなメリットになっていると感じます。単独で行っていたことをグループ全体で仕掛ければシナジー(相乗効果)が効いた形に大きく展開できます。言わずもがなですが、パナソニックは暮らしにまつわるあらゆるハード、ソフト、サービスを持っています。例えば、暮らしのあらゆるモノがネットにつながるIoTにおいて住宅設備や家電がインターネットでつながることは新たな付加価値になります。まちづくりのキーワードとしてコネクテッドを挙げていますが、トヨタ自動車の持つモビリティーの可能性もこれからもっと議論していくべきだと思います。
西村
そのとおりで、モビリティーの形はまだまだ可能性があると思います。例えば、三輪小型モビリティー「C+walk(シーウォーク)」をトヨタホームの愛知県みよし市三好丘にある戸建分譲地「TOYOTA HOME The FOREST AVENUE」で採用させていただきましたが、小さなモビリティーに限らず、暮らしとモビリティーのつながりは今後も進化していくと思います。将来、自動運転になればもっと自由にモビリティーと家がドッキングするかもしれない。さらに、電気自動車などに搭載されるバッテリーへ蓄えた電力を家庭で使用するシステム「V2H(Vehicle to Home)」は既にありますし、家とモビリティーは今後さらに身近な存在になっていきます。これらの技術は非常に進化が速いので、現段階からトヨタ自動車やパナソニックと技術連携して将来のまちづくり、家づくりに役立てたいと考えています。
栗本
5社の相乗効果は今後さらに広がりそうな予感がします。グループ社員の皆さまの意識変化や期待感はありますか。
北野
意識改革は道半ばなので、今はまず、各事業会社が取り組んできた様々な事例や情報をグループ内で共有していくことが重要だと思います。グループ約2万人の社員一人ひとりが「未来をまちづくるPLT」という言葉をすべての仕事の枕ことばに置いて思考して行動することを徹底したい。また、既に現場起点で様々なチャレンジが始まってフラッグシップとなる事例も次々に生まれています。そういったチャレンジを奨励していくこと、バックアップしていくことも重要だと思います。
誰もが幸せになれるまちづくりへ地道に挑戦
栗本
ぜひ、そのフラッグシップとなる事例をご紹介いただけますでしょうか。
西村
例えば、ミサワホームが手掛けた「ASMACI(アスマチ)神戸新長田」は、医療法人の課題を病院と住宅の複合開発で提案したプロジェクトです。複合開発により2つの病院を再編・統合し、病院・住民・地域にとって付加価値の高い、移転建て替えを実現できました。
病院は医療だけでなく地域との交流や健康を支える機能を担い、地域のウェルビーイング向上や医療を軸としたコミュニティー形成の中心的存在になりました。この成功体験が今回明示した4つのステートメントの1つ「住み替えたくなるまちから住み続けたくなるまちへ」という約束にもつながっています。
北野
地元企業や地元住民が主体となってつくった福島県伊達市の「Up DATE City ふくしま」も私たちの方向性を示すプロジェクトです。ここは「住宅を売ること」から「仕組みづくり」にシフトしたタウンプランナー型のまちづくりであることが特徴です。自治体・地元企業・住民とともに社会課題を解決するまちをプロデュースしています。
伊達市では当初は根強い公助意識があり、なかなか当事者意識を持っていただくことが難しかったのですが、パナソニック ホームズの社員が3年にわたり在住して地域に根を張ることで意識改革をしていきました。こういった地域とのプロジェクトは企業のトップと自治体の長が握手しただけでは何も進みません。できるだけ現場から積み上げていくような仕掛けや合意形成がなくては成功しないと思います。この経験が「まちの価値を創るバリューイノベーターとして、地域に根を張り、未来をまちづくる」という約束につながっています。
西村
産官学連携で人口流入に成功した埼玉県久喜市の「BLP南栗橋」もあります。これは2023年にグッドデザイン賞を受賞したプロジェクトですが、都心からも移住したくなるまちづくりを目指し、商業施設の誘致や遊歩道や公園の整備、駅舎のリニューアルなどいくつもの施策を実施しました。遊休地を魅力あるまちに仕立て直して人口の流動化を進めることが3つ目の約束「空間資源を有効活用し、社会課題の解決に向けて、未来をまちづくる」につながった事例ですね。
北野
最後にもう1つ、現在進行形の事例をご紹介させてください。小学校跡地を活用する羽田開発プロジェクトです。ここは東京都大田区に根付いていた製造業の持続的な操業環境の確保と地域コミュニティーの活性化などを目指して、産業支援施設の工場アパート、共同住宅兼店舗、公共施設を複合的に計画しています。ここは「生活の質を向上し続けるとともに、自分らしい居場所のあるまちへ」という約束につながっています。
利益よりも、地元企業を元気にすることを優先
栗本
地域の特性や課題に合わせて幅広い取り組みをなさっているのですね。御社は「地元企業が元気になること」もまちづくりで重視されていますが、その背景にはどんな理由、思いがあるのでしょうか。
西村
日本各地に戸建て住宅をご購入いただいて、お客様一人ひとりに寄り添わせていただいた原点に戻ると、地域を元気にするということは私どもの1つのミッションなのだと思います。正直言って、現場は根気のいる仕事になることも多いですし、利益や資金回収という視点で必ずしも合理的とは言えないケースも出てきます。そのような中でも、様々な小さなサービスの積み重ねでコンフォートな暮らしが生まれ、お住まいの方に喜んでいただく。その幸せが地域企業や商店街、自治体の方にも連鎖していくことを目の当たりにすると、「未来をまちづくるPLT」としてこれ以上の喜びはないと感じます。
栗本
課題解決型まちづくりの窓口を一元化した専用ホームページも立ち上げたと伺いました。まさに今、課題をお持ちの地方自治体や企業、医療分野の皆さまが興味を示されると思います。
北野
ハウスメーカーをグループに持つ当社の強みは、実際の暮らしを一軒一軒見てきたことです。大きなプロジェクトでも定型にはめず、小さなことからコツコツ積み重ねて現場ごとに柔軟に対応していきます。社会を取り巻く環境は常に新しい課題が生まれるもの。自治体、学校、病院の皆さま、どんなことでも結構ですので地域の困りごとは気軽にご相談ください。
これまでお世話になってきた日本各地の地域に恩返しをするつもりで、地域とともにまちの魅力を高め、人と社会をつなぎ、人々の幸せを支え続けることを目標にグループの力を結集して取り組んでいきます。
社会課題解決型まちづくり特設サイト
フラッグシップ事例にもあるように、「病院×住宅の総合開発」や、「地元企業や地元住民が中心になる仕組みづくり」、そして「人口流入を実現する郊外再生」に「公共施設跡地×ものづくり」など、まちの課題をご相談いただけます。
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